2018年8月11日土曜日

靴のお手入れ 2018/08/11


今日のメンテは2324。
先日クラックを見つけたこの靴。
そのまま履き続けても悪くなるばかりだろうと考え、もう一度何か手を打ってみることにした。





到着後の清掃を兼ねたメンテでお腹一杯もいい所と思える程色々入れてから履き始めたものの、到着時のメンテでは気が付かなかったクラックが皺部分に入っていることに気付いた。
革の経年劣化が原因で仕方のないものなのか、汚れたまま放置されていたことが良くなかったのか、私のメンテが至らなかったのか。
何はともあれ、現実にクラックが入っているのでこのまま履き続けても状況が好転することは無さそうに思えるので、改めてメンテすることにした。いまあるクラックの拡大と新たなクラックの発生を抑えることが主目的。

パッと見ではそれほど問題があるようには見えない状態の甲革。
革の状態を判断する私の目が節穴であることが改めて実証されたわけだが、ここから何をすべきかを考えるために、まずは履きおろし時の甲革のメンテを振り返ってみる。
所々で画像を取ったけれど今となってはどれがどの時点かわからないので省略。

・水拭き
汚れ落としにサラッと拭ってから水分補給を兼ねてヤワヤワと時間をかけて拭いていく。

・ステインリムーバー
ある程度乾燥してからコットンパフで汚れ落とし

・デリケートクリーム
リムーバーが乾いたらデリケートクリームを甲革全体に盛り付け。
ベッタリ塗りつけて吸い込まれるのを待つ。
表面が乾いたら軽く水拭きして、もう一度デリケートクリームを盛り付け。
一度目の盛り付けよりも乾くまでに3倍位時間がかかるが辛抱強く待つ。
表面が乾いたら軽く水拭き。

・馬油ハンドクリーム
乾いてからハンドクリームをこれもコッテリ塗り込む。
革にクリームが吸い込まれたら、もう一度コッテリ塗り込む。

・グリセリン保湿
水:グリセリン、7:3のグリセリン液を作り、コットンパフでまずは全体を湿らせ、
濡らしたパフを甲革全体に張り付けて6時間程放置。

・レダーオイル
グリセリンは乾燥に時間が掛かる為3日程乾燥させ、その後レダーオイル。
コットンパフを軽くオイルで湿らせ甲革全体に塗布。

・クレム1925
乾拭き後クレムを多めに塗布。(片足5粒程度)

・化繊ブラシ
・拭き取り

デリケートクリーム、馬油ハンドクリーム後の状態よりもグリセリン保湿実施後の方が革の状態が潤っているように見えて、グリセリン保湿の効果を目の当たりにした。
レダーオイルは、時にクリームを入れても光りずらくなることがあるので軽めに入れたのだが、案の定オイル革のような雰囲気になってあまり光らなかった。
こんな感じのメンテをして、あとは吸い込ませた成分を革内部で馴染ませるために頻繁にブラシ掛けと乾拭きをして履き下ろしたのだった。



さて、私としては丸洗いを除けば、考え得るすべてのメニューを盛り込んで、この薄い革がこれだけのものを吸収したのだろうかと疑問に思える程色々と入れた。革はもうお腹いっぱいもいいところだろうと思っていたのだが、実はそうではなかったのかもしれない。

メンテ内容からは水分も油分も十分に思えるが、クラックは発生している。足りないのは水分?油分?どっちもたっぷり入れたのでどちらか判断がつかない。それなら両方もう一度入れてやることにしよう。
水拭きで軽く水分を補充して、レダーオイルで油分をたっぷり補充してみることにする。

メンテを始める前に、ほかにクラックないか点検。






他にもクラックをいくつか発見。
羽根の付け根付近とジョイントのウエルト付近。
上画像3枚目、羽根近くのクラック画像は到着時に小さな丸い穴があいていたのだが、その穴がさらに破けて裂けているような感じ。
ジョイント付近は負荷が最もかかる場所でクラックが入るメジャーな箇所だと思うが、ノッチトウエルトの中の見えない部分にクラックが入っていた。ウエスト部分のウエルトの影には入っていないので屈曲で入ったクラックなのだろう。
ウエルト付近はグリセリン液を塗布した時に塗布した液が垂れてくる場所で、出し抜い糸の上などは液が溜まる程ビショビショになっていた場所なので、クラックの原因は水分よりは油分の不足のような気がしてきた。

他にもクラックが見つかったのは少し驚いたけれど、穴が拡がったクラック以外はどのクラックもそれほど深そうには見えないので、うまく対策できれば今あるクラックの拡大と新規発生を食い止められるかもしれないと勝手に都合のよい希望を持つ。

希望は大切だ。

希望をもってメンテ開始。

メンテ内容
アッパー
・水拭き
・レダーオイル
・乾拭き
・クレム1925無色
・化繊ブラシ
・拭き取り

アウトソール
・水拭き
・コンディショナー
・ゴリゴリ
・乾拭き


まずは水拭き。
ほとんど汚れは取れて来ず、浸透がとても速い。グリセリンの効果だろうか。
先芯の部分には水分が入りにくい。境目がクッキリ。


レダーオイルを軽く、3回くらいに分けて塗布。
ノッチトウエルトとの隙間のクラックにはペネトレイトブラシを使い、クラック周辺には多めに塗布した。



オイルを入れたらクラックは見えにくくなったような。




穴から広がったクラックはあまり変化ないが、付近のクラックは見えにくくなった。


オイル入れ完了。
オイル入れると革が柔らかくなるのと、クリーム塗っても光らなくなるのが気になるものの、まだ履ける靴だから言えるわけで、履けない靴になったら光る光らないなどという贅沢な文句すらいえなくなる。保革優先で思い切って入れていく。


2時間程浸透時間を取ってから乾拭き。
表面に残っているかも知れないオイルを拭き取るのと、オイルを革内部により浸透させるための刺激の意味と、クリーム塗布に備えての艶出し。


クリームは今までに塗ったことがないほど多めに入れてみた。米粒でいうと8・9粒ぐらいだろうか。
多少ヤケになっているような気がしなくもないが、私の感覚は通用しない靴なので、私の感覚よりも多めにいれることで不足を補えればと。


まだ甲革の色が濃くなっている部分がある。


30分程放置してから化繊ブラシでブラシ掛け。
部分的に油分過多でブラシが引っ掛かる場所がある。オイルを入れた量からすると、どこもかしこも引っ掛かってうんざりしそうに思っていたものの、予想が外れた。あれだけオイルを入れてもごく一部分しか引っ掛からないのだから、油分が足りていなかったことは間違いないようだ。

この時点でのクラックの具合はどうだろう。





オイルいれたときよりも更に見えにくくなっているように思う。
穴起源のクラックはすぐわかるが、他のクラックはどこだったっけ?

化繊ブラシ掛けの後、またしばらく放置する間にソールメンテ。


アッパーの状態が良くないならソールも同様と考えるのが自然かなと思って、コンディショナーを塗りこみゴリゴリ。
こうしてソールの摩耗状態を改めてみると履き心地の左右差や、履いている時に感じる違和感の原因がわかる。
向かって右の左足は親指側の消耗が激しいので足が内倒気味の人だったようだ。
向かって左の右足はどちらかというと外倒気味の荷重の掛かりかたで消耗具合も左足より穏やかな感じ。靴裏の消耗の仕方で脚の特徴や歩きかた足の大きさなど結構多くのことを推測できそうだ。




左足つま先はやはり内側が削れていて、右足のつま先は外側に向けて捻じれている。
履いて感じる物凄い左右差の原因の一つだろう。



この後、塗りたくったクリームを拭き取り。
ニュートラルのクリームなので、拭き取りをしても布に色が付くわけではないだろうから、拭き取ったか拭き取らないかよくわからないうちに適当に終わりになりそうな気がしていたが、実際に拭き取りを始めると布に茶色いものが付いてくる。
油分が革に浸み込んで染料が浮き出てきたのだろう。
クレムには洗浄効果があると聞くが、この布についてくる色はそのクレムの洗浄効果かもしれない。履きおろし前メンテの時は多少は色が付いたような気がするが、これほどではなかったように思う。ブリストルなどでは全く付かない。洗浄目的の場合は使用量を多くすると効果が出やすいのかも。

布に色が付かなくなった後もろう分でギラギラしているので、気の済むまで徹底的に拭き取りを行い、最後にクラックが拡がりませんようにとの祈りを込めて、新品の茶色の靴紐を通して完了。




私の感覚では依然ギトギト感が強い印象。またしばらくは気付いた時のブラシ掛けと乾拭きを続けていくつもり。

さて、完了後のクラックの様子はどんなだろうか。







皺付近にあるクラックはメンテ前より見えにくくなった。
ウエルト付近のクラックも、少し潤ったようでメンテ前よりはマシになったように思う。
多少の水分補給とタップリと油分を補給した今回のメンテでどこまでクラック拡大抑制に効果があるか、今回のメンテの主目的が達成できたかは、このあと履いてみてからわかることになる。
もし効果がなかったら、アッパーだけでもヤスってみるかな。

若い靴ばかり履いている私にとって、この古い2324は思いがけず様々なことを教えてくれている。どんな箇所に負担がかかりやすいのか、どのように革が破綻していくのか、実際にその状況を目の当たりにできるのは貴重な機会。破綻しやすい部分に意を注いでメンテするだけでも効果はあるように思うし、更にその対策手段も見つけられれば、若い靴達を長持ちさせるのに役立つかも知れない、いや役立たせたい。
また、こうして手間暇かけてメンテしていると愛着も湧いてくるというもの。
存在すらはっきりとは知らなかった靴だが、2236の販売開始年はいつかという疑問を起点に、リーガルの歴史を調べていたことで偶々この靴と出会い、今はリーガルの歴史を知ることのみならず、メンテの勘所に通じそうな経験をしている。歴史を知ることで温故知新とはこういうことかと思っていたけれど、メンテでも温故知新があるとは思いもよらなかった。
メンテの意味がまた一つ見えたように思うし、今まで見えていなかった靴の世界が見えてき始めているような気がする。革靴初心者の私には、まだまだ見えていない、知りもしない世界があるのだろう。革靴の奥深さを垣間見て、さらに革靴への興味が深まった。

4 件のコメント:

  1. こんにちは。
    2324、見違えるように綺麗になりましたね!
    流石です。

    クラック、これだけは避けたい事象です。
    でもHatateさんが書かれている通り、古い靴が教えてくれることもたくさんあるのですね。
    やはり力がかかる場所、曲げ伸ばしする箇所、硬い部材との接点などがポイントだとわかりました。
    自分自身のお手入れの参考にしたいと思います。
    ありがとうございました。

    ウェルトの境目に出来たクラックは要注意です。
    オールソール交換する時、すくい縫いの糸がうまく通せなくなってしまうようです。
    その時は、以前の縫い目から少しずらして修理してくださいましたが、靴の形が少し変わってしまいました。(笑)
    随分前ですが、一度経験しました。
    以来、時々歯ブラシを使ってコバ、ウェルト付近にデリケートクリームかミンクオイルを入れています。

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    1. チルットさん

      いつもコメントありがとうございます。
      2324、少しは見られるようになったかと思いましたが、裂け始めています。

      私は靴の最期をあまり知らないので良い経験になりますが、チルットさんのようなベテランの方々にとってはそんなに珍しいことでもないのだろうと思っておりました。

      ウエルトの影に隠れたクラックには驚きました。底を剥がす時だけでなく縫うときにも影響してしまうとは厄介ですね。雨に強いこの手のウエルトですが、視認しずらいのはリスクですね。また一つ勉強になりました。
      他のストーム系ウエルトの靴のメンテ時に意識してクリーム入れていこうと思います。

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  2. ひび割れは何回か経験していますが、全て原因がはっきりしていました。
    Hayateさんのエントリーを読んで、いわゆる経年変化に対して、どの部分に気をつけないといけないかが良くわかりました。

    経験したひび割れは、、、
    一つは、お手入れの何たるかを全く知らなかった頃、アッパーとコバとの境目で起きたひび割れ。
    雨の日に履いた後のケアが全く出来ていなかったことが原因だと思います。
    次は、小指付近が痛むためストレッチャーで皮を伸ばそうと負担をかけすぎ、1年くらいした後にストレートチップのキャップ部分の縫い目付近で生じた裂け目。(通算10年以上履いた靴ですので愛着がありました)
    もう一つは、丸洗いした後、クリームの入れ方が悪く、革が硬いまま履き始めたため甲の皺の部分で起きたひび割れ。
    最後はガラス貼り革を使ったアッパーで、使用数年後に起きる履き皺部分でのひび割れ。これは、表面の樹脂部分が割れているためある程度仕方がないかと割り切っています。
    本当にひび割れだけは避けたいものですね。

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    1. チルットさん

      いつもコメントありがとうございます。

      なるほど、経年で破綻しやすい部分が確認できたということでしたか。あまり経験がない私はそうとは知らず、不思議に思いましたが得心しました。

      チルットさんの豊富な革靴経験からご自身のご経験を共有下さりありがとうございます。
      まだ駆け出しの私にとっては得難い貴重な情報で、嬉しいです。
      濡れた後のケアと伸ばされる部分には特に気を配っていこうと思います。

      ガラス革の履き皺の割れだけは、私も経験しました。

      革靴に目が向き始めた頃、今も履いている33ERとほぼ同時期に購入した25ARで、履き皺から表面の樹脂が糸状に剥離してきました。315Rと同木型を使った踵の高いロングノーズの若い人向けの格好良い靴ではありますが、33ERと同サイズの26で履いたため、すぐに甲は閉じ切り、醜い履き皺が派手にバンプ部分を覆い、踵が高くロングノーズで捨て寸が大きく、甲が抑えられないので足が前にずれていってしまうという随分履きにくい状態になってしまいました。
      いま思うと樹脂が剥離しても、完全な割れまでには到達していなかったのかもと思わないでもありません。
      その頃は毎週クリーム入れてブラシ掛けしていたので、それでも割れてしまうのでは私の手に余るなと。どうメンテしたら良いかわからないと思い、未だに所謂ガラス革には手がでないでいます。いつかは再挑戦しようと考えていますが、未だに割れ回避の有効な対策が見当たらすで、後回しになっています。
      ガラス革が割れる割れないは履き皺の入り方に大きく影響を受けそうに思い、酷い皺の入り方を避けるには、大きすぎないサイズを選ぶことしか思い当たらず、同じ木型でも色々な皺の入り方をするのを目の当たりにしているので、現状では私にとって運任せの要素が強すぎるというのが率直な感想です。
      正直なところ私にとっては、ガラス革は扱いが難しく、銀付き革の方が扱い易いのです。(銀付き革もまだ数年程度ですので、わかったようなことを言うにはまだケツが蒼いのですが(^^;)

      クラック対策で思う所を試していますので、近いうちにまた関連記事をアップできたらと考えています。

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