2018年8月28日火曜日

クラック対策の実験 ②


さて、気を取り直して今度は右足と比べて状態が良さそうな左足。
状態が良さそうとは言え、使用には修理が必要な状態だけど…。





状態としてはこちらの方が傷も少なく少しマシに見える左足。
クラックもこちらの方が少なそう。




まずは水拭きで、乾いた革に水分を入れつつザックリと汚れ落とし。
水の浸透時間差で傷んでいる箇所が見える。




水拭きが終わったらすぐにステインリムーバー。乾燥させるとひび割れる可能性も否定できないと思い、矢継ぎ早に工程を進める。
ステインリムーバーが終わったらすぐに、乾燥で割れないようにデリケートクリームをコッテリ塗り込む。
塗り込み終わったら、ここはしっかり乾燥。






乾いてくるとクラック付近などの傷んでいる部分は目立ち始める。
しっかり乾燥のつもりだったが、キャップの濡れていない部分などが色違いになったら嫌だなと思い、程ほどに乾燥したところで次の工程、グリセリン水を入れる。



コットンパフにグリセリン水を含ませ靴全体をビチョビチョに濡らし、グリセリン水で濡らしたキッチンペーパーを大まかに被せてラップでくるみ一時間程放置。
今回、この2235③に使用しているグリセリン水の濃度は20%と少し薄めにしている。
30%だと乾燥後にベタつき感が強かったので、少し薄めにしてみた。


ラップを外すと、ダークブラウンの靴が出現w。


踵部分にまだグリセリンが入っていない部分があるので、この部分だけ追加でパック。



浸み込むまで放置して、浸透を確認後に外して乾燥させる。



グリセリンを加えると乾燥にとても時間が掛かる。
グリセリンの保湿力のなせる業か。




色が薄くなっている、皺の山部分は傷んでいることは確かだけれど、これクラックなのだろうか。シボの溝なのかクラックなのか判別が難しい。クラックとしては軽度のものなのかもしれない。






次にレダーオイルを思い切って投与。
塗布ではなく投与。バンプの傷んでいる部分へは集中的に投与。
革が本来の質感を蘇らせてきたようにも見えるが、傷んでいる部分は黒ずむ。
クラックは軽度のようだ。どれだかよくわからない。






クレムの無色を割とコッテリと塗り込んで乾拭き。
バンプ部分は油分過多気味なのか、レダーオイル後とそれほど違わない。


準備の為のメンテはここまで。ここからが主目的のクラック対策。
右足でヤスってみたものの、効果が見られずダメージが大きいので、今回は屈曲させて開いたクラック部分をクレムで着色してしまおうという試み。
クラックは止められないし、きっとジワリと進行していくものなのだろう。
クラックを確認する必要があるのはメンテの時だけで、履いている時にクラックを目にする必要はないし、見えない方が見映えも良い。

この左足の屈曲時のクラックの状態がどんなか、屈曲させてみる。



あらら、クラックが見えない。
微小なクラックはあるのかもしれないけれど、これでは実験台として不適。
実験するためにメンテして、蓋を開けてみたらクラックが見えませんでしたとは随分チグハグだ。
まず右足でクラックの中にクリームで着色する試みをして、その後にヤスって削り取る試みをすればすべて右足だけで済んだのに。実験の順序を間違えた。

もう一度右足でやってみるか、2324で実際にやってみるか。
せっかく実験用に調達したのだから、この2235にその役をやってもらおう。

ということで再び右足に登場してもらう。



この左右の羽根下すぐのバンプ部分のクラック。



屈曲させるとこのような状態。
屈曲させてクラックがはっきり見える状態のまま、このクラックにペネトレイトブラシでクレムのコニャックを突くようにして入れていく。



少しブレてしまったが、クラックの中にも色は入れられたように見える。



クリーム入れ後、ブラシ掛けと乾拭きをしてから再度屈曲させてみた。
クラックはなくならないけど、見えにくくはなったように思う。




非屈曲時の外見上でもクラックの白い線が見えにくくなった。


クラックの進行を止める術は見つからなかったけれど、クラックに色を入れることで見えにくくすることができそうだということがわかった。
クラックの大きさが拡大したり、新たなクラックが発生すれば、色の違いでそれとわかるだろうし、その度か、メンテのたびにクラックに着色していけば装着中にクラックが目立って気になることも少ないだろうし、他人から見られて気後れすることも減りそうに思う。
実際にクラックに色を入れてから履いてみないと実際の所はわからないけれど、ひとまずこの方法で2324のクラックに色を入れてみることにしようと思う。

さて、実験台になってくれたこの2235③に感謝。
爪先のメダリオンが左右で大きく異なり、靴底もつま先も限界で、アッパーの状態も悪いから修理して履き続けることはしないけれど、製造から少なくとも30年近くを履きっぱなし、ほったらかしで過ごしてきたように見えるこの靴。ソールはまだオリジナルのままだから、30年という年月の割には大して履き込まれてはいないと思うのだけど、傷が入ってもつま先がシャクレても、私のような素人がちょっと手を入れてやればここまで復活するとはこの靴のポテンシャルを見せつけられたような気がする。





アッパーには傷とクラックがあるけれど、おそらくオールソール修理は可能な状態。傷とクラックを気にしなければまだ履き続けることも可能とは驚嘆せざるを得ない。革靴とはそのぐらい頑丈なものなのか、グッドイヤーウエルト製法のなせる業なのか、スコッチクレインレザーの耐久性によるものなのか、リーガルの靴だからかなのかはわからないけれど、靴として機能を維持するという点において、この靴は過酷な環境で少なくとも数十年という年月それを維持し続けている。
新しい若い靴ばかりに囲まれて、見えていない、見失っていた靴の原点のようなものに改めて気付いた。
私が心を配って靴をメンテするその目的は、革の美しさを引き出そうという部分に主眼が置かれていて、靴の機能の維持という部分は当たり前すぎて見失っていたし、靴の機能が危ういというような年齢の靴もないのでその部分に目を向けることがなく、気付くことが難しかった。
ヒョンなことから古い靴を立て続けに入手してみて、若い靴では体験し得ない様々なことに気付けたことは大きな収穫だ。古い靴やほったらかし期間の長い靴は、普段の私のメンテとは違う、それ相応のメンテをしないといけないこともわかった。

私の足元にいる靴達もいずれこの靴と同じように齢数十年という時を迎える時がくる。私がその時生きているのかという問題もあるけれど、私がメンテを続けたらその齢数十年の時にはどんな状態になっているかと想像するとワクワクする。履き込み過ぎて退役しているかもしれないし、大して履かずに靴箱の中で眠っているかもしれない。メンテしていてもアッパーが割れてダメになっていることも考えられる。履き込み過ぎてヨレヨレした感じだけれど、齢を重ねた風格のようなものを醸し出している靴が一つでも残っていたら嬉しいし、そうできるようにしたいものだ。

この2235は水分をよく飛ばすために暫く放置した後、もう一度軽くメンテしてからしまっておくことにする。いずれ2235か2236の茶の新品を購入した時に比較したいから。
古い靴ばかり扱っていると、若い靴を手にした時にホッとしてしまう自分に苦笑いがでる。興味本位で古い靴に手を出したけれど、正直なところ、古い靴は色々な意味でまだ私には荷が重いようだ。

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